一年で一番長い日 33、34俺は一瞬ジェイムズ・スチュアートの気分になったが、ののかは誘拐されてないし、元・妻はドリス・デイではない。『ケ・セラ・セラ』なんか歌っている場合じゃないんだ。↑在庫切れ ↓期間限定在庫あり 【25sale】知りすぎていた男(期間限定) なるようになる、と今まで生きてきた。なるようにしかならない、と。 だが、今は「なるようになる」ではなく「どうにかしなくては」ならない。 「ワイダニットを探るためのピースを、俺はまだ全部並べてない」 俺は智晴の顔を見つめた。 「例のマンボウのピアス。赤い石のついたのをアオイという女がつけていたのを見たと聞いて、俺が驚いた理由は分かるな?」 「ええ。分かります。しかも、僕の見たアオイは、あなたが依頼された探し人である高山葵の写真とそっくりだった」 「それに、俺の見た女の死体ともそっくりだ」 「アオイと死体が同一人物だと?」 「いや。それはまだ分からない。なぜなら俺は今夜、<サンフィッシュ>でアオイらしき女と会ったからだ。写真の高山葵とそっくりだった」 「それでは今のところ、そっくりな人間は四人いるわけですね。高山葵と高山芙蓉の双子の兄弟と、僕の見たアオイ、それに死んでいた女」 俺は頷いた。 「俺がアオイに喉仏があったかを気にした理由が分かっただろ? 今夜俺が会った女は、首にスカーフを巻いていたよ。隣に座って話しかけてきたから、俺は訊ねた。『どこかでお会いしましたか』。そしたら、こう答えた、『ひどいわ、覚えていらっしゃらないの?』」 「意味深ですね。その女と似た顔の死体は見ても、彼女と話すのは初めてのはずですよね」 智晴の言葉に、俺は頷いた。 「女は去り際、謎の言葉を残した」 「・・・どんな言葉です?」 「『太陽の魚は、お日様が好きだと思う?』」 智晴はしばらく黙っていた。 「太陽の魚ですか。・・・マンボウのことでしょうか?」 「少なくとも、マンボウの英名は<オーシャン・サンフィッシュ>だな。女が現れた店の名前も<サンフィッシュ>、太陽の魚、だ」 「・・・」 「それに、今日お前が来る直前のことだ。変な電話があった」 ------------------------- そういえばあの声も男とも女とも分からない声だった。 『夏至のあの日、芙蓉を殺したのは、お前か?』 電話で言われたその言葉を告げると、智晴は考え込んだ。 「じゃあ、僕の会ったアオイという女は、高山家の双子のうち、五年前行方不明になった方だということですか? それならそれでいいとしましょう。だけど・・・」 智晴の言葉を引き取って、俺は言った。 「それなら今夜、俺に会いに来たのは誰なのか、ということになるよな」 智晴は頷いた。 男が女に化ける。そう難しいことではないかもしれない。明らかに男であることがわかる女装もあれば、女にしか見えない女装もある。そういえば数年前のドラマで、<下町の玉三郎>とも称される大衆演劇出身のベテラン俳優が女形に<なっていく>場面を見たことがある。 その俳優は、素顔ははっきり言って普通のオッサンだ。ごつごつしてさえ見える。それが、顔に白塗りをし、眉を描き、紅をさしていくと、見る見るうちに美女になっていくのだ。あれよあれよという間に現れる絶世の美女。まるで魔法のようだった。 本物の女より美しく、儚げな夢の女。 高山芙蓉なら、完璧に女に化けられるだろう。が、同じことは高山葵にも言える。 「あの死体についてはさ、何通りかの可能性が考えられるんだよな。 その1。高山葵と高山芙蓉は双子ではなく実は三つ子のきょうだいで、三人めは女である。夏至のあの日、俺の隣に横たわっていたのは彼らの三人めのきょうだいだった。 その2。智晴が出会った<アオイ>は実は高山芙蓉で、夏至のあの日、死体となって俺の隣に横たわっていたのはその高山芙蓉だった。 その3。智晴が出会った<アオイ>は実は高山葵で、夏至のあの日、死体となって俺の隣に横たわっていたのはその高山葵だった。 その4。智晴が出会った<アオイ>は高山芙蓉で、夏至のあの日、死体となって横たわっていたのは彼の双子の弟、高山葵だった。 その5。智晴が出会った<アオイ>は高山葵で、夏至のあの日、死体となって横たわっていたのは、彼の双子の兄、高山芙蓉だった。 くそ、ややこしい! だけど、その1は荒唐無稽に過ぎるよな。一応、可能性には入れてみたけど」 どこから見てもそっくりな二つの宝石があったとして、誰かがそれの位置を知らぬ間に動かしたとしたら、どちらがどちらかなんて動かした本人以外には知る方法が無い。宝石自身に意志があって勝手に入れ代わられたら、もっと分からない。 真珠のピアスの右左なんて、外した瞬間わからなくなるんじゃないか? ピアスって、真珠でなくても<双子>だよな・・・ 次のページ 前のページ ジャンル別一覧
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